イギリスワインの現在地|Wine GB Trade Tasting 2026で見えた最新事情と注目生産者

9月7日、ロンドンで開催された「Wine GB Trade Tasting 2026(ワイン・ジービー 業界向けテイスティング 2026)」に、今年も参加してきました。
一般にはまだ認知度の高いとはいえないイギリスワインですが、ワイン愛好家や業界関係者の間では、近年その存在感が着実に高まっています。
そんな「いま注目のイギリスワイン」について、今年のイベントの様子と、実際に試飲して感じた変化をレポートします!

Mayumi

イギリス在住、元British AirwaysのCAでWSET Diplomaのロバートソン眞由美です。今年もWine GB Trade Tastingに参加してきました。現地で感じた、イギリスワインの「今」をお届けします!


目次

Wine GBとは?

Wine GB(英国ワイン協会)は、ワイナリー、ぶどう栽培農家、ワイン業界関係者などの会員によって構成される英国ワイン産業の団体です。英国の商業的ワイナリーのほとんどが加盟しており、イギリスワインを応援したい一般の人も準会員になることができます。
Wine GBには地域別に7つの支部があり、生産者同士の情報交換をはじめ、収穫したぶどうや醸造器具の売買、ぶどうの生育に関するアドバイスなど、活発な交流が行われています。
英国のワイン産業は、欧州の伝統的な産地と比べれば、まだ歴史の浅い新興産業です。そのため、生産者やぶどう農家が互いに情報を共有し、協力しながら産業全体を発展させているといえるでしょう。


Wine GB Trade Tastingとは?

ロンドンの金融街シティにて。目の前にタワーブリッジが見える絶好のロケーション。

Wine GB Trade Tastingは、2017年から毎年9月の第一月曜日に開催されている、英国ワインの業界向け試飲会です(2024年以前は火曜日に開催)。
英国各地のワイナリーが一堂に会し、ワインを試飲できるだけでなく、生産者と直接話をすることができる貴重な機会です。
来場者はワイン商、ソムリエ、ワインツーリズム関係者、ワイン教育関係者、メディアなどが中心ですが、実際には事前登録をすればワイン愛好家やワイン勉強中の方も参加でき、比較的オープンなイベントです。
地理的に訪問しにくい地域のワイナリーや、まだ全国規模で流通していないワインを試飲できることも、このイベントの大きな魅力です。
私は2021年からほぼ毎年参加しているため、イギリスワイン産業の変化を定点観測する場としても、このイベントを楽しみにしています。
会場には毎年、いくつかの「テーマ・テーブル」が設置されます。
常設されているのが「Trophy Winners Table」。Wine GBが毎年開催する審査会で、各部門の最高賞であるトロフィーを受賞したワインを集めたテーブルです。
複数のマスター・オブ・ワイン(MW)を含む審査員によるブラインド・テイスティングで選ばれたワインが並ぶため、イギリスワイン全体の品質を確認するうえでも是非チェックしておきたいコーナーです。
そのほかのテーマは年によって変わり、各カテゴリーのワインを生産者の違いとともに比較試飲できるようになっています。


2026年イベントの内容

出展ワイナリー数・来場者数


2026年は80軒以上のワイナリーが出展し、提供ワインは約350種類以上、来場者は500名以上とのこと。
実際の会場での来場者数は、個人的にはこの数字より少なく感じました。ただし、今年は例年よりかなり広い会場だったため、そう感じた可能性もあります。
このイベントでは、イギリスワイン界の著名人に遭遇することも珍しくありません。
過去には、マスター・オブ・ワインのジャンシス・ロビンソン氏、著名なワインプレゼンターのオズ・クラーク氏、ワイン評論家のマシュー・ジュークス氏がすぐ隣りで普通にテイスティングしている、ということもありました!


2026年のテーマ別特設テーブル

Trophy Winners Table ― トロフィー受賞ワイン


今年のトロフィー受賞ワイナリーの中では、ドーセット州のLangham Wine Estate(ランガム・ワイン・エステート)が複数の賞を受賞しており、その活躍が特に目を引きました。

PIWI品種


今年初めて、PIWI品種をテーマにした特設テーブルが設けられました。
PIWI(ピーヴィー)とは、ドイツ語の「Pilzwiderstandsfähige」に由来する名称で、カビなどの病害に耐性を持つよう交配されたぶどう品種を指します。
冷涼で雨の多い英国では、病害対策はぶどう栽培における重要な課題です。そのため、農薬の使用を抑えながら栽培できるPIWI品種への関心は高く、「ダブル・エコ」と言われるように、環境面(Ecological)だけでなく栽培コストの削減という経済的(Economical)なメリットもあります。
かつて英国のぶどう畑ではPIWI品種が主流でしたが、1997年にNyetimber(ナイティンバー)が世界的な評価を得たことを一つの転機として、2000年代以降はシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエという、いわゆるシャンパーニュ3品種への植え替えが大きく進みました。

しかし現在、環境への配慮や気候への適応という観点から、PIWI品種を再評価する動きが見られます。

Wine GBの2025年のデータでも、英国で栽培されている主要品種の中には、セイヴァル・ブラン(Seyval Blanc)、ソラリス(Solaris)、ロンド(Rondo)といったPIWI品種が名を連ねています。

●ソラリス(Solaris)

ソラリスは、桃やトロピカルフルーツを思わせる華やかな果実香が魅力的な品種です。一方で、残糖による厚みや素朴さが感じられることもあり、個人的には単独で仕上げるよりも、ほかの品種とブレンドすることで、より魅力が引き出されるのではないかと感じました。

●カベルネ・ジュラ(Cabernet Jura)

PIWI品種カベルネ・ジュラ
濃いパープルの色調

今回初めて試飲したカベルネ・ジュラ。濃いパープルの色調に、黒系ベリーの凝縮したアロマ。さらにブラックペッパーを思わせるスパイシーなニュアンスがあり、まるでシラーのような力強さに驚かされました。北ローヌのシラーと比べると、より「ワンパク」な印象ではありますが、タンニンは中程度、アルコール度数は12%と軽やか。英国らしい冷涼な気候の個性が感じられる興味深いワインでした。

シャルドネ

現在、英国で最も多く栽培されている品種がシャルドネです。今回は、このシャルドネを重点的に試飲してみました。近年の英国では、スパークリングワインだけでなく、高品質なスティルのシャルドネが急速に増えています。

スタイルとしてはブルゴーニュ的なものが多く、シャブリのプルミエ・クリュを思わせるような、高い酸味とミネラル感を備えたワインも少なくありません。

2022~2025年ヴィンテージが混在していましたが、比較してみると、やはり2023年ヴィンテージの出来の良さが際立っていました。

ヴィンテージによる差が比較的大きいことも、イギリスワインの特徴の一つです。

価格帯別テーブル


ワイナリーのセラードア(ワイナリー直営ショップ)での販売価格によってワインを分類したコーナーも設けられていました。

●スティルワイン
£25以下(約5,000円以下)
£26~£40(約8,000円まで)

●スパークリングワイン
£30以下(約6,000円以下)
£31~£45(約9,000円まで)

ただし、これらの価格帯に該当するすべてのワインが出展されているわけではありません。
テーマ・テーブルへの出展には別途料金がかかるため、参加しているワイナリーは限定的でした。

2026年の印象


2021年から参加している私にとって、今年は少し印象的な変化がありました。
以前は、比較的狭い会場に出展者と来場者がひしめき合い、少々混沌とした「発展途上の産業ならではのエネルギー」が感じられるイベントでした。
それに対して今年は、全体的に少し落ち着いた印象です。
英国には現在、約280軒のワイナリーがあるとされますが、今年の出展は約90軒。全体の3分の1程度にあたります。
もちろん十分に多くのワイナリーが参加しているのですが、以前と比べると「行けばほとんどの生産者に会える」というイベントではなくなってきました。
出展料金の問題もあるでしょうし、近年は夏の高温化によって収穫時期が早まっていることも関係しているのかもしれません。
以前は9月末から収穫が始まるケースが多かったのですが、今年は9月上旬から収穫を開始するワイナリーも少なくないと聞きました。
一方で、こうした変化は必ずしもマイナスではありません。
むしろ、イギリスワイン産業が「新興産業の混沌とした段階」から一歩進み、より成長し洗練された産業へ移行しているサインとも考えられます。

注目の生産者

大手・既に確立しているワイナリー


以下のような英国を代表するワイナリーはイベントの常連、今年も華々しく出展していて来場者で賑わっていました。

●Gusbourne Estate(ガズボーン・エステート/Kent)


最高峰ワイン「Fifty One Degrees North」フィフティワン・ディグリーズ・ノースを含むほぼ全てのワインを試飲することが出来ました。
ちなみにFifty One Degrees Northは、British Airwaysのファーストクラスで、ローラン・ペリエ/グランシエクルやランソン/ノーブルなどと並んで提供されているプレステージ・キュヴェです。
全て高品質のワインばかりですが、ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワールの他、ロゼならスティルもスパークリングもお勧めです。


●Nyetimber(ナイティンバー/West Sussex)


こちらでもプレステージ・キュヴェ2種を含む全てのワインの試飲が可能でした。
何という贅沢!
Nyetimberのワインも決してあなたを裏切りません。

Mayumi

ナイティンバーの『1086』は、英国で初めて誕生したプレステージ・キュヴェ。2025年にはBritish Airwaysが、プレステージ・キュヴェの英国スパークリングワインを提供する世界初の航空会社となり、ファーストクラスに『1086 by Nyetimber』を採用しました。

●Black Chalk(ブラック・チョーク/Hampshire)


当初から日本市場に力を入れていたブラック・チョーク。過去6年で生産しているワインの種類が格段に増えました。


●Hambledon Vineyard(ハンブルドン・ヴィンヤード/Hampshire)


英国最古の商業的ワイナリーのひとつで、高品質のワインを造り続けるハンブルドン。
こちらのワインも日本で購入可能です。


【その他のお勧めワイナリー】

●Digby Fine English(ディグビー・ファイン・イングリッシュ/West Sussex)


●Simpsons Wine Estate (シンプソンズ・ワイン・エステート/Kent)

●Woodchester Valley Vineyard(ウッドチェスター・ヴァレー・ヴィンヤード/Gloucestershire)


●Westwell Wine Estate(ウェストウェル・ワイン・エステート/Kent)

注目の若手ワイナリー


●Jojo’s Vineyard(ジョージョーズ・ヴィンヤード/Oxfordshire)

オーナーの イアン・ビーチャー=ジョーンズ氏

2019年創業。オックスフォードシャー、テムズ川にほど近いチョーク質の丘陵地に自社畑を所有しています。
醸造を担当しているのは、ドーセット州のLangham Wine Estate(ランガム・ワイン・エステート)で醸造責任者を務めるTommy Grimshaw(トミー・グリムショウ)氏。
現在は白、ロゼ、スパークリングの3種類を生産していますが、いずれも土地のテロワールを生かしたバランスのよい仕上がりでした。
ワイナリーのあるHenley-on-Thames(ヘンリー・オン・テムズ)は、レガッタや大学対抗ボートレースで知られるほか、英国王室との歴史的なつながりも深く、観光地としても人気のエリアです。

●Abingworth Vineyard(アビンワース・ヴィンヤード/West Sussex)

オーナーのクリス・ステッドマン氏

2021年創業の家族経営ワイナリー。ウエスト・サセックス州、白亜石灰土壌が広がるサウス・ダウンズの南向き斜面にぶどう畑を所有しています。
スティルワインを中心に、シャルドネ、ピノ・ノワールのほか、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、さらにPIWI品種であるキャバレ・ノワール(Cabaret Noir)なども手掛けています。
近隣には、NyetimberやWiston Estate(ウィストン・エステート)など、すでに高い評価を得ているワイナリーが点在しています。

海外資本による英国ワイナリー


近年のイギリスワイン産業を語るうえで、海外資本の参入も見逃せません。


●Domaine Evremond(ドメーヌ・エヴルモン/Kent)

シャンパーニュ・メゾンのTaittinger(テタンジェ)によるワイナリーです。
2015年に土地を購入し、2019年に初収穫。2021年に瓶詰めした後、3年間の熟成を経て、2025年春に最初のワインをリリースしました。


現在は、「Edition I」と「Edition II」という異なるブレンドのワインが販売されています。

2020年をベースに2019年を20%使用した「Edition I」はフレッシュな酸味と果実香味の凝縮感がバランスよく、万人受けするワイン、2021年をベースに2019年・2020年のリザーヴワインを使用した「Edition II」は高い酸味と複雑なアロマで長期熟成のポテンシャルが感じられる玄人好みのワインと言う印象です。

●Pommery England(ポメリー・イングランド/Hampshire)

こちらもシャンパーニュ・メゾン、Louis Pommery(ルイ・ポメリー)による英国プロジェクトです。
2014年に土地を購入し、2019年に協業による最初のワインをリリース。2024年には初の自社ワインをリリースしました。

●Marbury Wines(マーブリー・ワインズ/Essex)

イギリスの伝説的醸造家 チャーリー・ホーランド氏

2023年、カリフォルニアの大手ワイングループ Jackson Family Wines(ジャクソン・ファミリー・ワインズ)の資本によってエセックス州Crouch Valley(クラウチ・ヴァレー)に設立されたワイナリーです。
最高醸造責任者は、Gusbourne Estateで活躍した伝説の醸造家Charlie Holland(チャーリー・ホーランド)氏。
2025年には、シャルドネとピノ・ノワールの初ヴィンテージとなる2023年産をリリースしました。今回出展されていたワインは2024年ヴィンテージ。より直線的なしまった印象の味わいでしたが、酸味と果実香味のバランスが絶妙で非常によくできたワインでした。


まとめ


今回のWine GB Trade Tasting 2026を通して強く感じたのは、イギリスワインの品質が着実に向上していることです。

以前は、イギリスワインの大きな特徴である高い酸が際立つ一方で、酸の強さが全体のバランスに十分に調和していないと感じるワインに出会うこともありました。しかし現在では、そうしたワインに出会う機会はかなり少なくなったように感じます。

特に顕著なのが、シャルドネをはじめとするスティルワインの品質向上です。
「イギリスワイン」と聞くと、現在でも「高品質なスパークリングワイン」というイメージが強いかもしれません。もちろん、スパークリングワインはイギリスを代表する存在であり、その品質の高さは揺るぎません。

一方で現在のイギリスワインは、それだけでは語りきれないほど多様になっています。シャルドネやピノ・ノワールといった品種だけでなく、PIWI品種をはじめとするさまざまな品種が栽培され、それぞれの土地や気候に適したワイン造りが模索されています。

会場では日本人の来場者も多く見かけ、日本におけるイギリスワインへの関心が確実に高まっていることも感じました。
今後は、シャルドネやピノ・ノワールといった国際品種だけでなく、PIWI品種をはじめとする英国ならではの品種選択が、イギリスワインの品質や個性をどこまで高めていくのかにも注目したいところです。

イギリスワインは、もはや「スパークリングだけの産地」ではありません。
その多様性と進化こそが、これからのイギリスワインの大きな魅力になっていくのではないでしょうか。
そしてWine GB Trade Tastingの魅力は、もちろんワインそのものだけではありません。
会場では、以前からの知り合いや馴染みの顔との再会があり、お互いの近況を報告し合う時間があります。同時に、これまで接点のなかった方々との新しい出会いもあります。
ワインを通じて人とのつながりが生まれ、そこからまた新たな情報や次の出会いへとネットワークが広がっていく … そうした「人とのつながり」もまた、ワインに関わることの魅力であり、Wine GB Trade Tastingというイベントの魅力のひとつだと実感しました。

British Airwaysのワインクラブ「BACCWS」メンバーと再会

BACCWS(バッカス)メンバーと会場で再会!

BACCWS(バッカス)は、 British Airways Cabin Crew Wine Societyの略称で、BAのCA向けワインクラブです。
現役時に入会すれば退職後も会員ステータスはそのまま。
他の二人は元CSD(チーフ・パーサー)ですが、コロナ禍でBAを見限ってワイナリーに転職しました。
二人ともワインオタクで、WSETのディプロマ資格保持者です。
今となっては、元BAのCSDというより、すっかりワイナリーの人です!

この記事を書いた人

ブリティッシュ・エアウェイズに22年間在籍し、VIPクルーとして政府チャーター機への乗務や、ファーストクラス訓練のワイン講師を経験。乗務のかたわら「Sussex Vino」を立ち上げ、イギリスワインを中心としたセミナーやワイナリーツアーを企画・運営。2026年7月の退職後はワイン業に専念し、イギリスからワインの魅力と心豊かなライフスタイルを発信している。

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