ほんの一口で、心がふっとほどけるようなワインがあります。
マデイラワイン。大西洋に浮かぶポルトガル領のマデイラ島で造られる、長い歴史を持ったワインです。

木下インターナショナル株式会社が主催するマデイラワイン試飲セミナーに参加しました。今回は、ブランディーズ社のコマーシャル兼マーケティングディレクターであるネルソン・カラド氏を迎え、リニューアルされた10年熟成マデイラについてじっくりと味わいながら、生産者としてのこだわりや想いを直接伺う貴重な機会となりました。
マデイラワインとは?熟成が生む、唯一無二の風味
マデイラワインは、加熱熟成というユニークな方法で造られる酒精強化ワインです。船での長旅の途中、暑さで変化した味が偶然にも美味しかった——そんなエピソードがきっかけとなり、今では「意図的に」熱と時間を加えるスタイルが確立されています。
そのため、マデイラはとても長持ちします。開栓後でも大きく変化することはなく半永久的に保存が可能です。温度管理が不要というのも、他のワインとは異なります。味わいも、辛口からデザートのような甘口までさまざま。ナッツやカラメルのような香ばしさは、一度知ると忘れられない魅力です。





スティルワインでヴィンテージとなると、価格もぐっと高くなりがちですが、マデイラワインなら比較的手の届きやすい価格帯で長期熟成の味わいを楽しめます。特に、誕生日や開業記念など、大切な年のヴィンテージを選べば、想いのこもった贈り物としてもぴったり。
名門ブランディーズ社が手がける、進化した10年熟成マデイラ
今回のセミナーで紹介されたのは、マデイラの名門「ブランディーズ社」による10年熟成マデイラのリニューアル。ポルトガルから来日したネルソン・カラド氏が、その背景を語ってくれました。


旧デザインのボトルは中身の色が見えないので、ラベルの「SERCIAL」という言葉でしか判断できませんが、新デザインは中身の色が見えます。「SERCIAL」「VERDELHO」「BUAL」「MALMSEY」の順に淡い色から濃い色になっているのが一目でわかります。ボトルのサイズも500mlから750mlに変更。
「SERCIALー辛口」「VERDELHOー中辛口」「BUALー中甘口」「MALMSEYー甘口」は白ブドウ品種の名前であり、味わい(残糖量)を表わす表記です。熟成が進むほど、そして残糖が多いほど、ワインの色調は濃くなっていきます。



特に印象的だったのは、酸味と甘みのバランス。熟成由来の深みがありながら、現代の食卓に自然と馴染むスタイルだと感じました。
ちなみにラベルの色は島にある森(緑)、海(青)、バナナ(黄)、お花(赤)のインスピレーショからだそう。




上記の写真は新SELCIALと旧SELCIAL。
リニューアルしたのはボトルの色やデザインだけではありません。
どちらも10年熟成のSERCIAL(セルシアル)ですが、新しいセルシアルの方が色調がやや淡く見えます。これは、熟成方法の違いによるものです。


旧セルシアルは、全期間をFunchal(フンシャル)で熟成していましたが、新しいものは最初の5年間を、より涼しいCaniçal(カニサル)で熟成し、その後フンシャルに移して残りの5年を過ごすという、新たな熟成プロセスが採用されています。ワインの残糖や酸の量は旧セルシアルと同じでありながら、カニサルでの熟成はよりゆっくりと進むため、結果として色調が淡くなっているのです。
この変更は、日々ブラインドテイスティングを重ね、フンシャルとカニサルそれぞれの熟成環境がワインに与える影響を丁寧に検証した結果、導き出されました。
さらに、この新しいワイン造りはマデイラ大学との共同研究に基づいています。これまでマデイラワインにとって最適な熟成環境、たとえば温度や湿度といった条件は明確にされていませんでした。研究では、倉庫内の温度と湿度を30分ごとに計測しながら詳細なデータを収集。2014年には、それまでフンシャルのみで行っていた熟成・ボトリングのプロセスの一部がカニサルに移されました。
実際に比較してみると、カニサルで熟成されたワインはフンシャルとは全く異なる個性を持つことがわかってきました。フンシャルは温暖な気候である一方、カニサルはより涼しく湿度も高いエリアです。地元の人々にとってはフンシャルがより温暖でカニサルがより冷涼なことは分かっていましたが、実際に計測してみるまで湿度の違いははっきりとは分かっていなかったそうです。
この結果、SERCIAL(セルシアル)やVerdelho(ヴェルデーリョ)においては、最初の5年間をカニサルで、残りの5年間をフンシャルで熟成させる方法が、最も素晴らしいスタイルを生み出すという結論に至ったそうです。
BUAL(ブアル)は、従来のスタイルから、残糖を10gほど控えめにすることで、これまでにない新たな表情を見せています。甘さの中にスパイシーなニュアンスが感じられ、ネルソン・カラド氏自身も「個人的にとても好みの味わい」と語る、魅力的なスタイルに仕上がっています。
一方のMALMSEY(マルムジー)は、以前よりもドライな印象を持つ仕上がりに。甘味が抑えられたことで、ナッツやキャラメル、コーヒー、紅茶といった複雑な香ばしさが際立ち、同時にフレッシュな酸も感じられる、奥行きのある味わいとなっています。


セミナーのあとは、参加者が自由に楽しめるフリーテイスティングの時間。


常温でも冷やしても美味しい、チーズやナッツとの相性はもちろん。和食や中華などジャンルを問わずお料理とも合わせられます。



個人的には、マデイラワインはチョコレートやカステラなどのデザートに合わせるのがお気に入り。甘さと香ばしさが引き立ち合い、至福のペアリングになります。
また、トニックウォーターで割り、ライムをキュッと絞った「マデイラ・スプラッシュ」は、蒸し暑くなるこれからの季節にぴったりの爽やかなアレンジ。食前酒としてもおすすめです。
マデイラワインの飲み方やマリアージュ、もっと楽しむためのヒントを知りたい方は、ぜひこちらのサイトもチェックしてみてください。
マデイラワインの楽しみ方 | Discovery Madeira Wine & Portugal -マデイラワイン&ポルトガルー
マデイラは「日常に寄り添うワイン」
「名前は聞いたことがあるけど、まだ飲んだことがなくて」
そんな方にこそ出会ってほしい、奥深い魅力をもつマデイラワイン。
開けたらすぐに酸化する心配もなく、毎日少しずつ楽しめる。ワインが初めての方にも、熟成の奥深さを知りたい方にも寄り添ってくれる存在です。
忙しい毎日でも、自分のペースで味わえる。それが、マデイラの最大の魅力かもしれません。
主催の木下インターナショナル様、そして来日してくださったネルソン・カラド氏とブランディーズ社に、心からの感謝を込めて。
マデイラという美しいワインが、もっと多くの日本の食卓に届きますように。

