ポルトガルは、地方ごとに異なる食とワインの文化が息づく、美食豊かな国です。北から南まで、多彩な郷土料理と土着ブドウによる個性あふれるワインを楽しめるのは、この国ならではの魅力。日本とも古くからの交流を通じて、深い結びつきを育んできました。
近年は「ワインツーリズム」が世界的に注目を集め、自然と文化、食とワインが一体となった体験は、美食と旅を愛する人々にとって理想の目的地と言えるでしょう。そんなポルトガルの魅力を発信するべく、ポルトガル政府観光局が東京でガストロノミーイベントを開催。その模様をご紹介します。


ポルトガルの魅力をぎゅっと感じたひととき。料理とワインを味わいながら「次は現地で、自分の五感で確かめたい」と思いました。イベントには駐日ポルトガル大使や観光局の方々も参加し、文化交流の熱気を肌で感じられました。
ポルトガルの美食とワインを体感する特別なひととき


ポルトガル政府観光局(Visit Portugal)の主催により、ポルトガルの食とワインの魅力を日本で体感できる特別なランチイベントが開催されました。会場となったのは、2025年に麻布台ヒルズにオープンした「SODDEN FROG(ソドゥンフロッグ)」。ミシュラン二つ星レストラン「Florilège(フロリレージュ)」の川手寛康シェフがプロデュースを手がける、いま注目の新感覚イノベーティブバーです。
この特別な舞台に、ポルトの名店「Antiqvvm(アントィクヴィム)」を率い、ミシュラン二つ星に輝くヴィトール・マトスシェフが来日。ポートワインで知られるポルトから自らワインを携え、日本のシェフとともに両国の食文化の融合をテーマとしたメニューを披露しました。川手シェフの監修のもと、SODDEN FROGの阿久津シェフがその哲学を受け継ぎながら丁寧に仕上げた料理は、ゲストを魅了しました。
さらに飲料面では、「Sodden Frog」のバーテンダー髙田氏がポルトガルワインを使った独創的なカクテルを、児島氏がオリジナルモクテルを提供。アルコールを嗜む人も、ノンアルコールを楽しみたい人も一緒に味わえるペアリングが用意され、多彩な飲み物の世界に浸ることができました。
なお、「Sodden Frog」という店名には、“びしょ濡れのカエル”という意味があり、「お酒を浴びるほど思う存分楽しんでほしい」という願いが込められているそうです。
Antiqvvm – 2 Michelin Star Fine Dining in Porto | Chef Vítor Matos



美食とワインに加え、創意あふれるカクテルやモクテルも堪能し、ポルトガルの魅力を存分に感じられた、一日限りの贅沢なひとときでした。
シェフとクリエイティブチームのご紹介


ヴィトール・マトスシェフ
1976年、ポルトガル北部ヴィラ・レアル出身。農家で育ち、幼少期にスイスへ移住。料理学校で学び、修業を経て23歳でシェフに就任。その後、数々の名門ホテルやレストランで経験を積む。2003年に「シェフ・オブ・ザ・イヤー」を受賞して以降、国内外で高く評価され、多くの受賞歴を持つ。
カーザ・ダ・カルサーダのレストランでミシュラン星を獲得。2015年にはポルトに自身のレストラン Antiqvvm を開店し、1年目でミシュラン1つ星、2024年に2つ星を獲得。ポルトガルを代表するファインダイニングの一つとなる。現在はAntiqvvmを中心に、国内各地のホテル・レストランのコンサルティングも行い、後進育成や地域食材を活かした革新的な料理を展開。地中海的な洗練されたスタイルを軸に、伝統と革新を融合したガストロノミーでポルトガル料理界を牽引している。


川手寛康シェフ
1978年生まれ、東京都出身。両親や親戚が料理人であり、幼い頃から料理人になること以外は考えられなかったほど料理が身近な環境で育つ。 1997年、「Q.E.D.CLUB」に入社。2000年より西麻布「オオハラ エ シーアイイー」で修行後、2002年に西麻布「ル ブルギニオン」に移り、菊地美升シェフに師事。2004年よりスーシェフとして活躍。2006年に渡仏し、モンペリエの「ジャルダン・デ・サンス」にて修行。帰国後、2007年より白金台「カンテサンス」にてスーシェフとして活躍。
2009年6月に独立し、南青山にて「フロリレージュ」をオープンさせる。2015年場所を神宮前に移転、2016年アジア50ベストでone to watchに選ばれ、2018年にはアジア3位までランクを上げる。同年ミシュラン二つ星を獲得。


(左から)ミクソロジスト 児島由光氏、
バーテンダー 髙田真之助氏、シェフ 阿久津一輝氏
SODDEN FROGの皆様
バーテンダー 髙田 真之助氏
1990年千葉県生まれ。
2013年からバーテンダーとしてのキャリアをスタート。
2020年から東京・神宮前「フロリレージュ」に加わる。
2025年「SODDEN FROG」の立ち上げに参画し、店舗運営に携わる。
ミクソロジスト 児島由光氏
1979年 群馬県生まれ。
イタリア料理やフランス料理のお店で働いた後、フロリレージュでドリンクペアリングの力を磨く。その後群馬県「白井屋ホテル」の「the RESTAURANT」でソムリエとして働き、特にノンアルコールペアリングで好評を得る。今回「SODDEN FROG」プロジェクトに参画。主にノンアルコールカクテルを担当。植物にも造詣が深く、独創的な世界観で魅了する。
日本ソムリエ協会認定「ソムリエ」「J.S.A. SAKE DIPLOMA」シェフ 阿久津一輝氏
2000年 群馬県生まれ。
パレスホテル オールデイダイニング、エステール勤務のあと、フロリレージュで川手のもとで研鑽を積む。その後ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブションに移り、グランメゾンでの仕事を覚える。
川手から声がかかり、SODDEN FROGのシェフとして参画。
出典:ポルトガル政府観光局 プレスリリース(2025年9月、東京)
一日限りのガストロノミーランチ
ポルトガルと日本、両国の伝統と革新が交差し、厳選された食材が生み出す洗練された一皿一皿。上質な空間の中で、一日限りの贅沢な美食体験を堪能しました。


提供された特別メニューの紹介
Gin Natura by Vitoe Matos
ヴィトール・マトスによるジン Natura


清涼感あふれる味わいが、
夏の名残を感じる9月の午後に心地よい
Espumante Murganheira, Távora Varosa
エスプマンテ・ムルガニェイラ、タヴォラ・ヴァローザ


日本では珍しいタヴォラ・ヴァローザ
Sodden Frog
Baked Sweet Potato
焼き芋


料理への期待感が高まります


Soalheiro Alvarinho, Monção e Melgaço
ソアリェイロ アルヴァリーニョ、モンサン・メルガッソ


モンサン・メルガッソ
柑橘の爽やかさ、凝縮したトロピカルフルーツの風味、豊かなミネラル感が広がる
Chef Vitor Matos
Gamba vermelha
Caviar oscietra / Coentros / Caril / Planta do gelo
ヴィトール・マトスシェフ
赤エビ
オシェトラキャビア / コリアンダー / カレー / アイスプラント


ポルトガルの海の恵みと異国の香りが共存する、
旅を思わせる一皿
Chef Vitor Matos
Atum Rabilho
Tomato / Pepino / Mexilhão em escabeche
ヴィトール・マトスシェフ
本マグロ
トマト / 胡瓜 / ムール貝のエスカベッシュ


中央:低温調理の本マグロ、缶詰の出汁を使ったクリームのソースにトマト、キャビアのような粒感にした胡瓜
右上:ムール貝を缶詰とフレッシュで楽しむエスカベッシュ



ポルトガルでは缶詰文化が根づいていて、町には缶詰専門店もたくさん。
有名シェフも缶詰を取り入れ、旨味を活かした料理を生み出しているそう。
Sodden Frog
Acelga Chinesa / Carapau
白菜 / 鯵


重湯や白菜ジュース、オリーブオイルのソースとともに、味わいはどこかお鮨を思わせる一皿




料理への情熱が直接伝わる、贅沢な体験となりました
Redoma Reserva Branco, Douro
レドマ・レゼルヴァ 白 ドウロ


フレッシュな酸とミネラル感が調和し、余韻が続く
Chef Vitor Matos
Robalo
Arroz carolino / Ameijoas / Plâncton Marinho / Citronella
ヴィトール・マトスシェフ
スズキ
カロリーノ米 / アサリ / 海洋プランクトン / シトロネラ


アサリ入りのクリーミーライスとともにいただく一皿
海の香りを堪能でき
米を多く消費するポルトガルらしさも感じられます
Quinta da Vacaria reserva branco, Douro
キンタ・ド・ヴァカリア リゼルヴァ 白 ドウロ


ミネラルを伴う長い余韻が印象的な一本
Chef Vitor Matos
Pargo
Ouriço do mar / Couve-flor / Carabineiro
ヴィトール・マトスシェフ
鯛
ウニ / カリフラワー / 手長エビ


カラメリゼしたピューレで奥行きをプラス
海ブドウはポルトガルにも根付く食材だそう
Sodden Frog
Maitake Mushroom / Kabocha Pumpkin
舞茸 / カボチャ


カボチャのニョッキを合わせて
ムースはカボチャの種を使ったもの、秋を感じるひと品
Natura by Vitor Matos Chrysos Branco, Douro
Natura by Vitor Matos 黄金の白 ドウロ


シェフゆかりの貴重な600本限定ワイン
熟した柑橘やストーンフルーツの香りに
ほのかな樽香が重なり、凝縮感のある豊かな味わい


ポルトガルから数多くのワインを携えて来日
料理とともにポルトガルワインの魅力も伝えてくださいました
Chef Vitor Matos
Bacalhau
Azeite / Alho / Louro / Caldeirada / Legumes
ヴィトール・マトスシェフ
バカリヤウ(鱈)
オリーブオイル / ニンニク / ローリエ / カタプラーナ風 / 野菜


国民食・バカリャウ(干し鱈)を合わせた一皿
シェフが持参した干し鱈を使い、オリーブオイルと鱈の戻し汁で仕立てたソースが旨味を引き立てます



魚介を中心に構成されたコースは、お肉がなくても十分な満足感を与えてくれるもので、ポルトガルで魚介がいかに大切にされているかを実感しました。マトスシェフの料理には鰯、本マグロ、スズキ、鯛、鱈など、日本人にも馴染み深い魚が多く登場し、その旨みを最大限に引き出した料理は、日本の食文化との共通点を感じさせます。さらに、ポルトガルはヨーロッパ随一の米消費国。日本と同じく「お米と魚をよく食べる国」であることに、自然と親近感を覚えました。
Dalva Porto 20 anos Tawny Blended by Vitor Matos
ダルヴァ・ポート・トーニー20年 ヴィトール・マトスブレンド


20年トウニー・ポート
ナッツやドライフルーツの香りにキャラメルの甘やかさが
重なり、柔らかな酸が味わいを引き締める
Chef Vitor Matos – Claus Porto
Diospiro – hoshigaki / citrinos / baunilha
ヴィトール・マトスシェフ クラウス・ポルト
干し柿 / 柑橘 / バニラ


「CLAUS PORT」をイメージしたデザート
干し柿、バニラムース、フレッシュシトラスを重ね、
日本の感性と融合させています



クラウス ポルト | CLAUS PORTO 日本公式オンラインストア
ポルトに世界的に有名な石鹸ブランドがあるんですね!訪れたらぜひ本店に立ち寄ってみたいです。


所作も丁寧で美しい


どの瞬間も印象的
ポルトガルワインを用いたカクテル


Ameal Loureiro×Japanese pear
アメアル・ロウレイロ×和梨


和梨の優しい甘さが心地よい
カクテルであることを忘れてしまいそう…
Redoma 23 Douro×Turnip
レドマ23 ドウロ×蕪


ワイン由来のミネラル感が重なり、清らかで奥行きある余韻に
オレンジのオイルがアクセント
Soalheiro Rose×Japanese ginger
ソアリェイロ・ロゼ×ミョウガ


ミョウガ特有のほろ苦い香りがアクセント
爽やかですっきりとした味わいが、余韻まで心地よく続きます
Vinha Pan Baga×Fig
ヴィーニャ・パン・バガ×イチジク


自家製イチジクリキュールを合わせたカクテル
赤ワインの力強さと果実の甘やかさが調和する一杯


Porto Nieport 10years×Jyunmai sake
ポート10年・ニーポート×純米酒


店名Sodden Frogは“びしょ濡れのカエル”という意味
ポルトの甘やかさと日本酒の旨みが響き合う
両国をつなぐ一杯


ほとんど磨かない(精米歩合94%)米が持つ旨みを活かした
味わいが印象的でした



ワインベースのカクテルは度数も程よく、素材をかけ合わせることで加わる甘みや苦みが食事に寄り添い、とても楽しめました。ワイン好きとして、ワインに新しい表情を与えるカクテルはとても興味深い体験でした。
モクテル(ノン・アルコールドリンク)




群馬・光東酒造の麹を合わせたモクテル
南国らしい器が雰囲気を添えます


凍らせたトマトから一晩かけて抽出した濃厚なエキスに、
ガーリックオイル、オレガノの香りがピザを思わせます


店名Sodden Frogは“びしょ濡れのカエル”という意味
ピノ・ノワールをイメージしたモクテル
ローズヒップを思わせる香りでお肌にも良さそう


エスプーマを重ねたモクテル
きなこと黒糖のサワーブレッドとともに
食感のコントラストも楽しめました


優しい甘さと温かみが広がり、ほっとする味わいです



初めて体験したミクソロジーカクテルは、見た目の美しさに加え、多彩な食感に「次は何だろう」とワクワク。一晩かけてエキスを抽出するなど、手間を惜しまないスタイルにも感動しました。野菜や果物を使った一杯は健康志向の方にも喜ばれそう。ノンアルコールであることを忘れてしまうほどの満足感でした。
ポルトガル文化に触れる体験


ポルトガルを象徴する陶器ブランドの鰯の置き物
料理やワインだけでなく、ポルトガル文化の一端にも触れることができました。1884年創業の陶器ブランド「Bordallo Pinheiro」はキャベツや果物をモチーフにした器で知られ、ユーモラスで可愛らしく、暮らしに寄り添う存在です。今回は、マトスシェフがゲストに鰯の陶器をお土産に持ってきてくださっていて、思い出を持ち帰る素敵な一品になりました。美食とともに、ポルトガルの文化を身近に感じられる体験でした。
まとめ|日本とポルトガルをつなぐ美食交流
今回のイベントを通じて、ポルトガルの多彩さとガストロノミーの先進性を実感することができました。
川手シェフは「同じく海に囲まれ、魚介が豊富な点に共通点を感じて親近感を覚えました。同時に、日本の食材の使い方との違いに刺激を受けました」と語っていました。ヴィトール・マトスシェフは「世界中で料理をしてきたが、これほど親身に迎え入れられたレストランはなかった」と語り、さらにポルトガルの魚介を象徴する鰯や、持参した数々のワインへの強い情熱もゲストと分かち合ってくださいました。
美食、ワイン、そして工芸。ポルトガルの多様な魅力を一堂に体験することで、日本とポルトガルの文化交流の奥行きを改めて感じられるひとときとなりました。

