【Wine Flight編集部より】
元CAからワインの道へ転職──挑戦の舞台は国際的なワイン資格「WSET Diploma」へ。
今回のコラムでは、元日系・外資系客室乗務員の石本育美さんが、ワイン業界へとキャリアをシフトしていく姿を前後編にわたってお届けします。
現在は紹介制レストランでソムリエとして活躍。
Instagram(@iku_winegram)では、ワインの魅力を発信しながら、WSET Diplomaにも挑戦、2025年8月に合格されました。
前編では、CA時代に芽生えたワインへの関心や、業界への転身のきっかけ、現在の仕事について。
そして後編では、世界でも難関とされるWSET Diplomaへの挑戦と、そのリアルな日常を深掘りします。
「いつかワインを学んでみたい」「WSET Diplomaに興味がある」——そう思っている方にとって、一歩を踏み出すヒントがきっと見つかるはず。
ぜひ最後までお楽しみください。
※本記事は石本さんがDiploma挑戦中に執筆いただいたものです。
客室乗務員のお仕事
私にとって、客室乗務員はまさに天職でした。

新卒で入社した国営カタール航空を皮切りに、日系、欧州系の航空会社3社に勤務しました。毎日変わる目的地、世界約140ヵ国を飛び回り異なる文化背景を持つお客様への接客、そして毎便異なるクルーたちと力を合わせて最善のサービスを提供すること。そのダイナミズムに、心からやりがいを感じていました。
特に外資系の航空会社では、国籍も文化も異なる仲間たちと協力し合うことで、フライト後の達成感は格別なものでした。
しかし、新型コロナウイルスの影響により状況は一変。大好きな仕事から離れざるを得ず、客室乗務員の採用活動も停止。戻る道が閉ざされた現実に、まるで人生のどん底にいるような気持ちになりました。

ワインとの出会い
もともと、ワインを楽しむことは好きでしたが、知識を深めようと思ったことはなく、ステイ先や休暇で訪れるレストランでおすすめされたワインを食事とともにいただき、「美味しいな」と感じる程度。難しいことはわからないので、自分が好きなものをリピートして飲むことが日常でした。

思っていなかった
周囲にソムリエ資格を勉強している同僚はたくさんいましたが、自分には縁のない世界だとその時は思っていました。
コロナ禍で時間が生まれたことで、何か新しいことを始めてみようと思い立ち、WSET Level 2のオンライン講座を受講しました。実は、10年前カタール航空でビジネスクラス・ファーストクラスを担当する乗務員にはWSET Level 1の取得が求められており、私にとってWSETは比較的身近な存在だったのです。
その後、偶然のご縁で出会ったワインスクール「五鬼塾」の五鬼上さん(私の“ワイン師匠”ともいえる方)から、リラックスした雰囲気の中でワインの楽しさを教えていただき、自然とソムリエ試験に挑戦する流れとなりました。

ワイン業界への転職と、ゼロからの挑戦
所属していた航空会社が、日本路線からの正式な撤退を発表し、自分の進むべき方向を改めて考えさせられました。

次の進路を考えていたときに、国内の外資系ホテルでソムリエとして働いてみないか?と声をかけていただきました。「次は、何をして生きていきたいのだろう?」と自分に問い直し、出てきた答えは、“好きなことを、仕事にしてみたい”という素直な気持ちでした。以前からワインが好きだったこともあり、やってみるか!と決意します。
配属先は、ホテルから新しくオープンするレストラン。立ち上げから携わるという大きなプロジェクトで、当初は「自分に務まるのだろうか」と不安な気持ちもありました。
そんな私の背中を押してくれたのが、一般社団法人日本ソムリエ協会常務理事の米野真理子さんとの出会いでした。備品やグラスの選定、ワインリストの構築、オペレーション設計など、立ち上げから運営に至るまで、二人三脚で現場をつくり上げていきました。一つひとつの業務が“学び”であり、まさにソムリエとしての基礎を現場で積み重ねていく日々でした。
実践を経て、学び直しの必要性に気づいた日
やがて、レストラン運営も軌道に乗り、サービスにも手応えを感じられるようになっていきました。お客様とワインを介した会話を楽しめる時間は、まさにこの仕事の醍醐味とも言えます。
ワイン好きのお客様がいらっしゃる時は、お客様からテクニカルな質問(ブドウの栽培や醸造について)が多く、内容に自信を持って答えることができなかった経験が何度かあり、とても悔しく感じました。その時、今まで表面的に暗記していた知識をただ並べていただけで、背景や意味を理解していなかったことに気づきました。
「サービスとしては成立していたかもしれない。でも、自分の言葉で伝えられていない」そう気づいたとき、プロとしての自分に大きな課題を感じました。
「もっと深く、魅力的にワインのことを語れるようになりたい、表面的な知識ではない伝える力を身につけたい」
その想いが、次の学びへの一歩を後押ししてくれました。
ソムリエ資格取得後すぐに、WSET Level 3を受講。CAPLAN校の講師エットーレ先生の授業では、ブドウの栽培や醸造工程について“なぜそうなるのか”という視点から深く掘り下げて学ぶことができました。
そして、この経験があったからこそ、次なる挑戦——WSET Diplomaへとつながっていくのです。

ワインのスタイルを勉強
WSET Diplomaでの学びと決断
WSET Level3を合格し、WSET Diplomaの受講を考え始めました。
「今の自分に、Diplomaを学ぶレベルの知識や経験が本当にあるのだろうか」
「決して安くはない受講料に対して、自分は覚悟を持って取り組めるのか」
こうした不安から、今はまだ早いのかもしれないと、一度は足踏みしていたのです。
そんな時、ワイン商えいじの肩書きでご活躍されている竹村さんとお話しする機会に恵まれました。竹村さんのワインに対する深い知見、幅広い視野に、大変刺激を受けました。自分の中にあった迷いが不思議とクリアになり、「今の自分にこそ、挑戦する価値があるのではないか」と思え、その足で受講申し込みに向かっていました。
WSET Diplomaは、単なる資格取得ではなく、ワインを深く、広く、多角的に捉えるための一種のトレーニングをしているように感じます。現場で出た疑問や、断片的だった知識が体系としてつながっていく過程は、まさに“学び直し”の醍醐味だと実感しています。
特に、「Forbes JAPAN」に掲載された水上彩さんの記事は、Diplomaという学びの全体像を非常に分かりやすく言語化されており、これから検討される方にはぜひ一読をおすすめしたい内容です。
▶︎ 水上彩さん WSET Diplomaに関する記事「Forbes JAPAN」
※ワイン産業を多角的に読み解く観点が豊富で、他の記事も大変読み応えがあります。

限られた時間を効率よく使う

後編では、WSET Diploma試験について綴ります。
試験に向けての学びの日々や、仕事との両立、そしてその先に描くビジョンまで。ぜひ引き続きご覧ください。