イベント概要
2026年2月3日(火)、ワインに着目したツーリズムおよび周遊促進をテーマとするメディア向けイベントが開催されました。
イベントは、セミナー、トークセッション、試飲会の三部構成で実施されました。セミナーでは、ワインジャーナリストの水上彩氏が講師を務め、日本ワインを取り巻く環境や主要産地の動向について解説。続くトークセッションでは、中央日本4県(新潟・長野・山梨・静岡)をテーマに、ワイン産業とワインツーリズムの現状、そして将来像について活発な意見が交わされました。試飲会では、各県のワインを県産食材とともに味わいながら、産地ごとの個性や魅力を体感できる機会が設けられました。
WF編集部中央日本4県は運命共同体?!セミナーの中でこの4県に共通するものが明らかに!
セミナー「日本ワインの現状とワインツーリズムの可能性」


日本ワインの現状と産地の変化
現在、全国のワイナリー数は約500を超え、過去10年でほぼ倍増しています。産地は北海道から沖縄まで広がり、日本ワインの裾野は大きく拡大しました。
主要産地の構成にも変化が見られ、かつては山梨が突出していましたが、現在では長野がほぼ同数まで増え、北海道も急速に存在感を高めています。
2018年の法改正により、「日本ワイン」は国産ブドウ100%使用が義務化され、「国産ワイン」と明確に区別されるようになりました。これにより、消費者からの信頼性が向上しました。品質面でも全体的な底上げが進み、繊細な料理に寄り添う軽やかさやスタイルの多様性が評価され、日本ワインは一過性のブームではなく、選択肢のひとつとして定着しつつあります。
国際評価と世界的トレンド
近年、日本ワインは国際コンクールでの受賞が増え、品質面での評価が高まっています。さらに、長野や山梨のヴィンヤード※がWorld’s 50 Best Vineyardsに選出されるなど、ワインツーリズムの分野でも国際的な注目を集めるようになりました。※「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」「98Wines」
また、デンマークの名店NOMAでは北海道・余市のワインがオンリストされるなど、世界的な軽やかさ志向のトレンドと、日本ワインの「みずみずしさ」(良い意味での)「飲みやすさ」が価値として結びついています。
日本ワインの課題とワインツーリズムの必要性
日本ワインの国内市場におけるシェアは約5%にとどまっています。ワイナリー数の増加により競争は激化しており、国税庁のデータによると、生産者の約半数が赤字または低収益の状況にあります。
このため、単に「造って売る」だけでは持続が難しく、体験価値や付加価値の創出が不可欠です。その解決策の一つとして、ワインツーリズムや他県との連携による取り組みが重要視されています。
フォッサマグナが育む4県のテロワール


フォッサマグナは、日本列島を東西に分ける巨大な地質構造で、約2000万年前の列島形成や伊豆の海底火山列の衝突が、現在の地形とテロワール形成に大きく関与しました。
糸魚川ー静岡構造線上に位置する4県は、地質や地形の違いがワインスタイルの多様性を生み出しています。新潟の砂地と礫質土壌、長野の火山灰由来の粘土土壌、山梨・静岡の複雑な地層構造は、それぞれ異なる個性を持つテロワールを形成しています。中央日本4県は、フォッサマグナという巨大な地質構造の上に位置する、いわば運命共同体ともいえる存在です。
県別の魅力とツーリズム戦略
新潟は、川上善兵衛に由来する歴史と、海と山という二つの風土を併せ持つ点が大きな魅力です。
長野は「信州ワインバレー構想」による面的な産地形成と、人材育成を重視した教育拠点の存在が特徴で、体験型ツーリズムが充実しています。
山梨は国内最大産地としての規模と回遊性に加え、歴史資源を生かした先進的なワインツーリズムが確立されています。
静岡は、多雨という厳しい環境を技術で克服し、富士山麓という唯一無二のストーリー性を生かした高付加価値体験を展開しています。
日本酒とワインのクロスオーバーモデル


来訪者を相互に誘導するクロスオーバーモデルを確立
山梨県大月市の笹一酒造では、笹子峠のトンネルを境に気候が変化する地理的特性を生かし、日本酒とワインの両方を製造しています。これにより、顧客が両方を試飲する機会が生まれ、滞在価値を高めるツーリズムモデルとなっています。
新潟県|二面性を活かすガストロノミーと発酵ツーリズム
新潟県は、日本海に面した砂地の沿岸部と、内陸の豪雪地帯という二つの異なる表情を併せ持つ産地です。海側の産地がアルバリーニョなどの白ワインが有名な一方、山側の産地では熟成のポテンシャルがあるマスカットベーリーAやメルロといった高品質な赤ワインが作られています。同一県内で異なる個性が共存している点は、新潟県ならではの大きな強みといえます。
近年は新潟県ワイナリー協会が設立され、産地としての発信力も強化されています。
カーブドッチでは、ワインショップやレストラン、宿泊施設、読書カフェを併設し、日帰り客を一泊から連泊へと導く滞在型モデルを確立しています。海と山の食材のペアリングや発酵文化を軸にした展開は、今後のガストロノミー・発酵ツーリズムの核となる可能性を秘めています。新潟県といえば、日本酒や味噌、醤油などに代表される発酵食文化が根付いた地域でもあります。ワインを単独で打ち出すのではなく、「発酵」という大きな枠組みに位置づけることで、ワイン、日本酒、食を横断した発酵ツーリズムとしての展開が可能になります。その中にワイナリー巡りを組み込むことで、発酵を軸に地域を回遊してもらう新たな導線を生み出すことができると考えられます。
長野県|面で進める産地づくりと教育・体験型滞在
長野県では、個々のワイナリーではなく「面」で産地を育てる取り組みが進められています。県内では5つのワインバレー構想が推進され、ワイン特区制度の活用により新規参入も加速しています。
千曲川ワインアカデミーなどの教育機関が人材育成を担い、栽培や醸造を支える基盤が整いつつあります。
ツーリズムの面では、紅葉などの自然景観とブドウ栽培・収穫体験を組み合わせたプログラムが展開されています。さらに、古民家の一棟貸しなどを活用し、地域での暮らしを追体験できる滞在型の仕組みづくりも進められています。今後は、「泊まる理由」を意識的に設定していくことが重要だと考えられます。
単にホテルに宿泊するのとは異なり、時間に追われることなく、のんびりと過ごせることや、心身が落ち着くような体験は、日常に疲れを感じている現代人に強く響く可能性があります。
山梨県|最大産地ならではの回遊性と自律型ツーリズム
日本最大のワイン産地である山梨県では、甲府盆地の中央部に約70のワイナリーが集積しており、高い回遊性を有しています。短時間で複数のワイナリーを巡ることができる地理的条件は、大きな魅力です。
2008年に始まった「ワインツーリズムやまなし」は、参加者が自ら計画を立てて巡る自律的な仕組みを採用しており、造り手と来訪者との関係性が自然と深まる点が特徴です。
勝沼に残る有形文化財や、日本最古のワイン寺とされる大善寺、棚田とブドウ畑が織りなす景観など、歴史と風土をたどるルーツツーリズムとしての魅力も高く、産地の厚みと物語性を併せ持った取り組みが進められています。
静岡県|少数精鋭、適応とストーリー
静岡県はワイナリー数こそ多くありませんが、少数精鋭で存在感を高めている産地です。中伊豆ワイナリーが国際コンクールでグランドゴールドを受賞するなど、品質面での評価も着実に高まっています。
一方で、静岡県は勝沼や松本と比べて約2.67倍という年間降水量があり、ブドウ栽培にとっては厳しい環境にあります。こうした条件に対し、房にグレープガードを装着して一房も濡らさない工夫を行うなど、「環境を言い訳にせず、人が適応する」という姿勢のもとで多様な取り組みが重ねられています。高標高地での垣根栽培への挑戦、さらには富士山の地下水を活用し、冷たい地下水でタンクを冷却するなどの取り組みも行われています。
観光面では、乗馬やグランピング、温泉、ウェディングといった既存の観光資源とワインを結びつけ、火山、温泉、富士山という地域資源の物語の中にワインを位置づける取り組みが進められています。ワインを新たな導線とすることで、既存観光をつなぎ直す役割が期待されています。
トークセッション:4県それぞれの強みと、連携の先に見える未来


続いて行われたトークセッションでは、新潟・長野・山梨・静岡の各県を代表するパネリストが登壇し、それぞれの地域におけるワイン産業の特徴や主要品種、そしてワインツーリズムの現状と将来像について意見を交わしました。
各県が持つ明確な個性に加え、それらを横断的につなぐことで生まれる新たな可能性が示される内容となり、日本ワインを軸とした広域的なツーリズム展開への期待が感じられました。


新潟県ワイナリー協会会長、(株)岩の原葡萄園 代表取締役社長の高岡成介氏は、南北に長い地形による多様な気候を持ち、雪深い上越地方のマスカット・ベーリーAや、海沿いの砂地で造られるアルバリーニョなど、個性豊かなワインを生み出していることを紹介しました。また、豊かな食文化を持ちながらも、その魅力が十分に発信しきれていない現状を指摘し、ワイナリー単独ではなく、観光協会や酒蔵など他産業と連携し、地域全体として魅力を伝えていく必要性を強調しました。
銀座NAGANOイベントマネージャーである齋藤富士子氏は、長野県がワイン用ブドウ生産量日本一であり、ワイナリー数もこの10年で急増している現状を説明しました。「信州ワインバレー構想」のもと、ワイン列車やワインタクシーといった交通機関との連携、さらには味噌やチーズなど他の発酵食品と組み合わせた「発酵ツーリズム」など、長野ならではの先進的な取り組みが紹介されました。ワインの魅力は、現地で風土を感じながら味わうことで最大限に伝わるという言葉が印象的でした。
山梨からは、Wine Cellar HASEBE長谷部酒店、日本ソムリエ協会常務理事の長谷部賢氏が登壇しました。日本ワインの歴史を牽引してきた山梨が、現在は「山梨の甲州」から「どの地域の甲州か」という、より細かなテロワールを重視する段階に入っていると語りました。2008年から続く「ワインツーリズムやまなし」の成功事例に触れながら、生産者・行政・観光関係者が一体となり、畑や食文化を含めて地域全体の魅力を伝える重要性を指摘しました。今後は4県が連携し、広域的なワインツーリズムを構築することで、さらに大きな魅力を生み出せると提案しました。
静岡からは、富士山ワイナリー醸造責任者のエイミー・シンガー氏が登壇しました。富士山麓の高標高・火山性土壌というテロワールを活かし、100%富士宮産ブドウによるオレンジワインを新たに発売したことを紹介。富士山や伊豆半島といった世界的な観光資源とワインを結びつけることで、静岡ならではの体験価値を創出していると語りました。また、車で訪れる観光客が多い現状を踏まえ、ノンアルコール飲料も用意するなど、誰もが産地の雰囲気を楽しめる工夫も行っている点が印象的でした。
試飲会:4県のワインとご当地食材を味わう
新潟県




長野県




山梨県








静岡県




まとめ
今回のセミナーを通じて、新潟・長野・山梨・静岡の4県が、それぞれの産地の強みを共有し合うことで、ワインツーリズムはより魅力的で立体的な体験へと広がっていきそうです。
セミナー、トークディスカッション後の試飲会では、各県のワインに加え、それぞれの県の食材を使った料理も一緒に楽しみながら、テロワールや造り手の思い、産地の魅力を体感できる時間に。各県の方々と直接言葉を交わし、実際に味わうことで、産地を訪れてみたいという気持ちが自然と高まる締めくくりとなりました。
今後も当メディアでは、ワインツーリズムの魅力や各地の取り組みについて、現地での体験や取材を通じて積極的に発信していきます。
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