
オーストリアで出会う、気取らないワイン時間をご紹介します。
オーストリアと聞いて思い浮かぶのは、「音楽の都」ウィーン、アルプスの大自然、歴史ある街並みなど、豊かな文化や風景ではないでしょうか。
実はこの国、“ワインの国”としてもたくさんの魅力があります。
市内にはブドウ畑が広がり、トラム(路面電車)で行ける距離にホイリゲ(ワイン居酒屋)が点在しています。 そしてウィーンを起点に旅を広げると、各地に個性豊かなワイン産地が広がっており、多彩なワインが造られているのも魅力です。
今回は、そんなオーストリアワイン文化の魅力を、ウィーン、ホイリゲ、そしてワインショップでの体験とともにご紹介します。


オーストリアワインってどんなワイン?
「オーストリアのワインって、あまり聞いたことがないかも…?」 そう思う方も多いかもしれません。でも実はこの国、ワイン好きにはたまらない魅力が詰まっています。
オーストリアでは、赤・白・ロゼ・スパークリング、さらには甘口ワインまで、実に多彩なスタイルのワインが造られています。 栽培されているブドウ品種も多様で、オーストリアならではの地元品種であるグリューナー・ヴェルトリーナーやツヴァイゲルトに加え、リースリングやピノ・ノワールなどの国際品種も幅広く栽培されています。
中でも特に有名なのが白ワイン。 代表的なグリューナー・ヴェルトリーナー(Grüner Veltliner)は、フレッシュで爽やかな香りと味わいが特徴的で、地元では日常的に楽しまれています。高品質なものはウィーンからほど近いドナウ川周辺で多く造られており、ヴァッハウ(Wachau)やクレムスタール(Kremstal)といった地域は特に有名です。一部の生産者による上質な造りのワインは、長期熟成できるものもあります。
赤ワインにも、ぜひ注目したいところです。 オーストリア固有の品種、ブラウフレンキッシュ(Blaufränkisch)やツヴァイゲルト(Zweigelt)から造られる赤ワインは、気軽に楽しめる軽やかでフルーティーなタイプから、樽で熟成させた深みのある味わいのもの、さらには長期熟成に向くしっかりとしたスタイルまであります。 特に、ハンガリーとの国境近くに位置する、ブルゲンランド州は、日当たりがよく日照量にも恵まれていることから赤ワインの産地としても高く評価されています。
そのブルゲンランド州にあるノイジードル湖周辺は、ユネスコの世界遺産にも登録されている自然豊かな地域で、香り豊かで上品な甘口ワインが造られています。 なかには、甘口ワインの本場である隣国ドイツにも引けを取らないほどの高品質なものもあります。
さらに、シャンパンと同じ伝統的な製法、瓶内二次発酵で造られる、上質なスパークリングワインもあり、近年その品質の高さから注目を集めています。
日常のひとときから特別な場面まで、そっと寄り添ってくれるのが、オーストリアワインのうれしいところです。
市内にブドウ畑がある!? ウィーンのワイン文化


これまでオーストリアワイン全体について紹介してきましたが、実はこの国、首都・ウィーンの市域内にブドウ畑とワイナリーが点在する、世界でも珍しいワイン産地のひとつでもあります。
トラムで市内中心部からおよそ1時間ほど行くと、目の前に広がるのはブドウ畑とゆるやかな丘の風景。街のすぐそばに、こんな自然が広がっていることに驚かされます。ウィーン市内では、オーストリアを代表する白ワイン、ゲミシュター・サッツ(Gemischter Satz)が多く造られています。
これは、同じ畑に複数の品種を植え、同じタイミングで収穫・醸造する「混植混醸」という、ウィーンの伝統的なスタイルで造られています。
ゲミシュター・サッツと名乗るには、最低3品種以上のブレンドが必要で、グリューナー・ヴェルトリーナー、リースリング、ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)など、最大で20種類の白ブドウ品種が使用可能とされています。
スタイルは軽やかでフレッシュなものが主流で、暑い日や食事に合わせても楽しみやすいのが特徴です。 一方で、フレンチオークを使って複雑でしっかりとした味わいに仕上げたスタイルも造られています。
日本のワインショップなどではまだあまり見かけないかもしれませんが、ワインに力を入れている寿司店や和食レストランで、少しずつ提供されるようになってきています。
現地ではホイリゲ(ワイン居酒屋)やレストランで気軽にグラスで楽しめる、まさに“日常のワイン”です。
ちなみに、滞在中に訪れたことのあるCobenzl(コベンツェル)というワイナリーは、市内からトラムとバスでアクセスできる立地にあり、気軽に立ち寄れます。市が運営する少しユニークなスタイルのワイナリーで、敷地内のレストランではウィーンの街並みを眺めながら、地元料理とグラスワインを楽しむことができます。 ウィーンらしい風景とワインに触れるにはぴったりの場所です。
ウィーンを訪れる機会があれば、ぜひ現地でゲミシュター・サッツ(Gemischter Satz)を味わってみてください。きっと旅の思い出がより深まるはずです。
ホイリゲで過ごす、ウィーンの日常とワインのひととき
ウィーンのワイン文化を語るうえで欠かせないのが、「ホイリゲ(Heuriger)」と呼ばれるワイン居酒屋の存在です。 「ホイリゲ」は、“今年の”を意味するドイツ語「heuer」に由来し、その年に収穫されたブドウから造られた“新酒”、そしてその新酒を提供するワイン居酒屋の両方を指します。
毎年11月11日の聖マルティンの日には、その年の新酒が解禁され、地元ではこの日を楽しみにホイリゲに足を運ぶ人もいます。 もともとは、ブドウ農家が自家製ワインを直接ふるまうことが許されたのが始まりだそうで、2019年にはこの文化がユネスコの無形文化遺産にも登録されました。
また、ホイリゲの魅力はその手頃な価格にもあります。 グラスワインが数ユーロで楽しめるうえ、料理もシンプルでおいしく、市内のレストランよりもずっとリーズナブル。たとえば、グラスワイン1杯が3ユーロほどから楽しめることも。市内でこの値段で楽しむのはなかなか難しいですよね。
オーストリア・ウィーンのホイリゲならではの魅力として、どの店舗に行ってもゲミシュター・サッツが楽しめるのもポイントです。
オーストリアのワイン産地では、各地にホイリゲが点在しています。
中でも、ウィーン19区に位置するグリンツィング(Grinzing)やハイリゲンシュタット(Heiligenstadt)といった地域は中心部からのアクセスも良く、気軽に訪れやすいエリアとして人気です。
ブドウ畑が広がる美しい景色の中、地元の人々がゆったりとワインを楽しむ―そんな豊かな時間が、今もこの土地に息づいています。
ウィーンで出会った、印象に残るホイリゲ3選
いずれも、現地で音楽活動をしているウィーン在住の友人や、滞在歴の長い方に教えてもらったお店で、それぞれに個性があり、どのお店でも素敵な時間を過ごすことができました。
➤Zum Martin Sepp
グリンツィングの中心にある、歴史ある教会のすぐそばにたたずむ老舗ホイリゲ。広々とした庭にテーブルが並び、観光客も地元の人もにぎやかにワインを楽しんでいるのが印象的でした。
➤Heuriger Wolff
1602年創業の家族経営のホイリゲ。タイルストーブがあるあたたかみのある店内と、緑に囲まれたテラス席が魅力的で、初めて訪れたとき、ワイングラス一杯の価格の手頃さに驚いたのを、今でもよく覚えています。
➤Fuhrgassl-Huber
母との旅行や、仲のいい会社の同期とも何度か訪れたことがあり、これまで訪れたときには観光客の姿はほとんど見かけず、地元の人たちで常に賑わっていたのが印象的で、まるで“ウィーンの暮らしの一部”に少しだけ混ぜてもらったような感覚でした。 運が良ければ、看板猫のような存在のミンキーちゃんがお出迎えしてくれることも。私が訪れたときには、隣の椅子に座ってくれるという大サービス!笑 これまでにないおもてなしを受けて、仕事の疲れが一気に吹き飛びました。




オーストリアの伝統料理を堪能


猫のミンキーちゃん
市内から少し足をのばすと、自然の中にホイリゲがいくつもあります。
ぜひオーストリアを訪れた際には、ワインとともにウィーンの日常を感じる時間を味わってみるのはいかがでしょうか。
街のワインショップ 「Wein&Co」
ウィーン市内を歩いていると、気軽に立ち寄れるワインショップがたくさんあります。 中でも印象的だったのが、ウィーン中心部に複数店舗を構える 「Wein & Co」。


ウィーンで最も有名なワインショップのひとつで、多くの店舗にバーが併設されており、その場でグラスワインを楽しめるのも魅力です。 ふらっと立ち寄った際に、気になるワインを1杯だけ試せるのも嬉しいポイントです。
店内には国内外のワインがずらりと並び、オーストリア各地のボトルも手頃な価格で豊富に揃っています。10ユーロ以下で買えるワインも多く、日本で見かけるオーストリアワインとの価格差には本当に驚きました。
店員さんも本当にやさしく、いつでも親身にワイン選びを手伝ってくださいます。 初回訪問から数か月後に再び訪れた際には、女性スタッフの方が “Welcome back!” と声をかけてくださり、思わず驚いたとともに、嬉しかったのをよく覚えています。


バーが併設されている
Diploma試験の勉強用に、ワインを一緒に選んでもらったこともあります。 プロフェッショナルでありながら親しみのある接客をしてくれるスタッフの皆さんには、いつも感謝しています。
※WSET Diplomaは、国際的なワインの上級資格
ウィーンを訪れる際には、ぜひ立ち寄ってみてください。 店舗ごとにショップやバーの雰囲気が少しずつ違うのも、楽しみのひとつです。


地域ごとにワインが並ぶ


地域ごとにワインが並ぶ


ロゼワインがずらりと並んだコーナー
まとめ
次の旅先に、是非オーストリアを 今でも、どこか敷居が高いイメージがあるワインですが、 気取らず、あたたかく迎えてくれる場所で、ゆっくりと楽しめる― そんな場所のひとつが、オーストリア・ウィーンです。
オーストリアの日常に寄り添うワインにふれて、 「ワインってもっと気軽でいいんだな」と思える時間に出会えました。
もしそんな時間を探しているなら、 次の旅先の候補に、ぜひオーストリアを加えてみてください。



ウィーンで待ってるニャン♥