「ノンマロ」だけでは語れない、シャンパーニュ・ゴッセの魅力|テイスティングセッションレポート 取材・宮崎まりDipWSET

2026年7月29日、東京・パシフィック洋行株式会社にて、シャンパーニュ・ゴッセ(GOSSET)のテイスティングセッションが開催されました。

ゴッセ・アンバサダーの矢田部 匡且氏

今回のセッションは、レストラン関係者やホテルソムリエ、小売店バイヤーなど、ワイン業界のプロフェッショナルを対象としたもの。ゴッセ・アンバサダーの矢田部匡且氏をモデレーターに迎え、ゴッセの歴史から栽培、醸造哲学、そしてそのスタイルまでを体系的に学びました。

日本では「マロラクティック発酵を行わない、硬質なスタイルのシャンパーニュ」というイメージを持たれることも多いゴッセ。しかし、その個性は「ノンマロ」という言葉だけでは語りきれません。

1584年創業という歴史、ブドウ栽培農家との関係、そしてセラーマスターの感性に基づくアッサンブラージュ。6種のテイスティングを交えながら紹介された、ゴッセの歴史や醸造哲学、そしてその魅力をレポートします。

目次

1584年、アイ村から始まったゴッセの歴史

今回のセミナーは、パシフィック洋行が2025年10月よりゴッセの取り扱いを開始したことを契機に企画されました。

モデレーターを務めたのは、ゴッセ・アンバサダーの矢田部匡且氏。ホテルやレストランで豊富な経験を持つ矢田部氏は、実際にフランス・エペルネのゴッセ本社を訪問した際の体験も交えながら、メゾンの歴史や哲学、栽培、醸造について解説しました。

ゴッセの歴史は1584年、シャンパーニュ地方のアイ村(Aÿ)から始まります。

創業者のピエール・ゴッセはアイ村の村長を務め、当時はこの地で赤ワインやロゼワインを造っていました。現在のような発泡性のシャンパーニュが確立される以前からワイン造りを行ってきた、非常に長い歴史を持つメゾンです。

アイ村は現在もピノ・ノワールの銘醸地として知られています。ゴッセも当初は赤ワインを中心に生産しており、発泡性のシャンパーニュを本格的に手がけるようになるのは後世になってからです。

現在、ゴッセはエペルネに本社を構え、約2ヘクタールの庭園を所有しています。創業の地であるアイ村にもカーヴが残されていますが、現在の醸造の中心はエペルネへと移っています。

150の契約栽培農家からブドウを調達

ゴッセは自社畑のブドウだけでワインを造るエステート型の生産者ではなく、150の契約栽培農家からブドウを調達するネゴシアン・マニピュランです。年間生産量は約100万本で、シャンパーニュの大手メゾンのなかでは比較的小規模な生産量にとどまります。

矢田部氏が現地でキュミエールの畑を視察した際には、隣り合う区画でも栽培方法によって畑の様子が大きく異なっていたといいます。

契約農家では、オーガニックやビオディナミ、リジェネラティブ農法など、それぞれの考え方に基づいた栽培が行われています。しかし、ゴッセが特定の農法を一律に求めているわけではありません。

重視しているのは、「環境を尊重した栽培であること」

どの農法を名乗るかではなく、それぞれの栽培農家が土地や環境とどのように向き合っているのか。その姿勢そのものを大切にしているという考え方が印象的でした。

ゴッセのスタイルを生み出す「感性の醸造」

現在のゴッセのスタイルを担うのが、2016年にセラーマスターに就任したオディロン・ド・ヴァリーヌ(Odilon de Varine)氏です。

そのワイン造りで特に興味深いのが、アッサンブラージュに対するアプローチです。

半年間、毎日約60種類をブラインドテイスティング

アッサンブラージュの期間には、午前30種類、午後30種類、1日約60種類ものワインをINAOグラスでブラインドテイスティングし、それを約半年間にわたって続けながら方向性を決めていくといいます。

セラーマスター自身の味覚と感性がすべてを決めます

膨大な数のワインを繰り返し試飲しながら、ゴッセとしてあるべき味わいを組み立てていく。その積み重ねが、メゾンのスタイルを支えています。

リザーブワインを「年」ではなく「味」で管理

多くのメゾンがリザーブワインをヴィンテージやソレラ方式で管理するのに対し、ゴッセでは「酸味」「塩味」「苦味」といった味わいの要素ごとにリザーブワインのタンクを管理しています

「何年のワインかではなく、必要な味わいを補うためのリザーブワイン」という考え方に、ゴッセならではの独自の哲学を感じました。

醸造はステンレスタンクのみ

ゴッセでは約200基のステンレスタンクを保有し、醸造には木樽やアンフォラを使用していません。

基本はマロラクティック発酵を行わない

そして、ゴッセを語るうえで欠かせないのが、基本的にマロラクティック発酵を行わないという醸造方針です。

マロラクティック発酵を避けることで、ゴッセの特徴である張りのある酸と透明感を守っています。

ただし、すべてのキュヴェが完全な「ノンマロ」というわけではありません。例外となるのが「ゴッセ・エクストラ・ブリュット NV(Gosset Extra Brut NV)」です。

「ゴッセ=ノンマロ」という特徴は確かにメゾンを理解する重要な要素のひとつです。しかし今回のセッションを通して見えてきたのは、それだけでは説明できないゴッセの姿でした。

契約栽培農家の多様なテロワールを受け入れ、膨大なベースワインと向き合い、味わいに必要な要素をリザーブワインから選び取り、アッサンブラージュによってひとつのスタイルへとまとめ上げる。

その背景を知ることで、このあとテイスティングする各キュヴェの味わいが、より立体的に見えてきます。

ゴッセを理解する3つのレンジ

ゴッセ・アンバサダーの矢田部 匡且氏

ゴッセのラインナップは、「アンティーク」「ヘリテージ」「セレブリス」の3つのレンジに分けられています。それぞれの位置づけを知ることで、ゴッセが表現するスタイルの幅と、各キュヴェに込められた哲学がより明確になります。

アンティークレンジ

メゾンのスタイルを幅広く表現する中心的なレンジです。

  • ゴッセ・グランド・レゼルヴ(Gosset Grande Réserve)
  • ゴッセ・グラン・ロゼ(Gosset Grand Rosé)
  • ゴッセ・グラン・ブラン・ド・ブラン(Gosset Grand Blanc de Blancs)
  • ゴッセ・キュヴェ・スザンヌ(Gosset Cuvée Suzanne)
  • ゴッセ・キュヴェ・ゼロ・ドサージュ(Gosset Cuvée Zéro Dosage)

ヘリテージレンジ

ヴィンテージの個性と、ゴッセが受け継いできたスタイルを表現するレンジです。

  • ゴッセ・グラン・ミレジム(Gosset Grand Millésime)

セレブリスレンジ

ゴッセの最高峰に位置づけられるプレステージ・キュヴェ「セレブリス」のレンジです。

  • ゴッセ・セレブリス・ヴィンテージ(Gosset Celebris Vintage)
  • ゴッセ・セレブリス・ロゼ(Gosset Celebris Rosé)
  • ゴッセ・セレブリス・ブラン・ド・ブラン(Gosset Celebris Blanc de Blancs)

スタンダードなキュヴェからヴィンテージ、そして最高峰のセレブリスまで。こうしたレンジの構成を把握しておくと、この後のテイスティングでも、それぞれのワインがゴッセのラインナップの中でどのような役割を担っているのかを理解しやすくなります。

6種のゴッセを比較テイスティング

セミナー後半では、6種類のゴッセを比較テイスティングしました。

ゼロ・ドサージュからヴィンテージ、マグナム、セレブリス、そして唯一マロラクティック発酵(MLF)を行うエクストラ・ブリュットまで。異なるキュヴェを一度に比較することで、共通するゴッセらしさと、それぞれの個性がより明確に見えてきます。

ゴッセ・キュヴェ・ゼロ・ドサージュ

Gosset Cuvée Zéro Dosage

  • ベースヴィンテージ:2013年
  • ティラージュ:2015年
  • デゴルジュマン:2025年
  • リザーブワイン:10%
  • シャルドネ62%、ピノ・ノワール38%
  • ドサージュ:0g/L

昨夏リリースされた新しいキュヴェです。

ドサージュを行っていないにもかかわらず、果実の厚みがあり、テクスチャーにはクリーミーさも感じられます。一方で、ゴッセらしい張りのある酸がワインの輪郭を明確にしています。

ゴッセ・グラン・ミレジム 2016

Gosset Grand Millésime 2016

  • デゴルジュマン:2023年
  • シャルドネ61%、ピノ・ノワール39%
  • ドサージュ:4g/L

シャルドネを61%と高い比率で使用した2016年のヴィンテージ・シャンパーニュです。セミナーでは、シャルドネ比率の高さについて、温暖化への対応という背景も紹介されました。

酸にはしっかりとした張りがあり、全体の印象は端正でクラシック。マロラクティック発酵を行わないことで保たれた酸がワイン全体を引き締め、ゼロ・ドサージュ緊張感のあるスタイルです。

ゴッセ・グランド・レゼルヴ NV マグナム

Gosset Grande Réserve NV Magnum

  • ベースヴィンテージ:2019年
  • デゴルジュマン:2024年
  • リザーブワイン:15%
  • シャルドネ45%、ピノ・ノワール35%、ピノ・ムニエ20%
  • ドサージュ:6g/L

ゴッセを代表するグランド・レゼルヴを、今回はマグナムボトルでテイスティングしました。

マグナムならではの緩やかな熟成によって、果実味、酸、泡がなめらかに溶け合い、テクスチャーには一体感があります。

華美になりすぎず、それでいて十分な複雑さを備えた味わい。ゴッセのスタイルを身近に楽しむことのできる、いわば「日常の美しさ」を体現する一本です。

ゴッセ・セレブリス 2012

Gosset Celebris 2012

  • デゴルジュマン:2022年
  • シャルドネ70%、ピノ・ノワール30%
  • ドサージュ:5.5g/L

ゴッセの最高峰「セレブリス」。

セラーマスターのオディロン・ド・ヴァリーヌ氏は「プレステージ・キュヴェとは呼ばないでほしい」と語るそうですが、その完成度は圧巻です。

熟した果実の豊かさを持ちながら、酸が全体を貫き、両者が高い次元で調和しています。構造は緻密で、余韻も長く、時間をかけて味わいたい一本です。

ゴッセ・セレブリス・ブラン・ド・ブラン 2012

Gosset Celebris Blanc de Blancs 2012

  • デゴルジュマン:2023年
  • シャルドネ100%
  • ドサージュ:7g/L

オディロン氏が新たに生み出した、シャルドネ100%のセレブリスです。

印象的なのは、シャルドネの純度と垂直性。ミネラル感が一本の線のように長く続きます。

ゴッセ・エクストラ・ブリュット NV

Gosset Extra Brut NV

  • ベースヴィンテージ:2019年
  • デゴルジュマン:2024年
  • リザーブワイン:15%
  • ドサージュ:4.8g/L

ゴッセのラインナップのなかで、唯一マロラクティック発酵を行う例外的なキュヴェです。

黒ブドウを主体とした味わいには果実の存在感がありながら、4.8g/Lという低いドサージュによってドライな印象に仕上がっています。

食中酒として幅広い料理と合わせてみたくなるシャンパーニュです。

フランスで支持されるゴッセ

矢田部氏によると、フランスでゴッセに対する評価の高さを実感する場面も多かったそうです。

パリのレストランを訪れた際には、ソムリエやメートルから「ゴッセはいい」という声を聞き、特にエペルネ周辺では身近なシャンパーニュとして親しまれているといいます。

ゴッセは世界的なマーケティングによって知名度を高めるというより、フランス国内で長く支持されてきたメゾンのひとつです。こうした現地での評価を知ることも、ゴッセを理解するうえで興味深いポイントでした。

日本でこれからどう伝わっていくのか

長い歴史を持つ一方、日本ではゴッセのスタイルやメゾンとしての全体像が十分に伝わってこなかった側面もあります。

「ゴッセという名前は知っているけれど、どのようなシャンパーニュなのかイメージしにくい」。そんな印象を持つ人も少なくないかもしれません。

2025年10月からパシフィック洋行が取り扱いを開始し、現在はゴッセの歴史や哲学、醸造の背景まで含め、その魅力を改めて伝える取り組みが始まっています。

ゴッセ・アンバサダーを務める矢田部氏も、ゴッセのイメージを新しく構築していくことを自身の使命として語っていました。

「ノンマロ」だけでは語れないゴッセの魅力

今回の特別イベントは、ゴッセが単に「ノンマロの硬質なシャンパーニュ」というイメージだけでは語れない、歴史・哲学・技術・感性が重なり合う唯一無二のメゾンであることを、改めて深く理解する機会となりました。

1584年創業という長い歴史、ネゴシアンとして多様な畑のブドウを扱うこと、セラーマスターのオディロン氏が大切にする感性、ヴィンテージではなく“味”を基準に管理するリザーブワイン、ノンマロラクティック発酵による透明感と緊張感、そしてゾーン分類による幅広いレンジ。こうしたさまざまな要素が複雑に重なり合い、ゴッセならではのスタイルを形づくっています。

6種類のテイスティングを通して、その奥行きと多様な可能性を実感できた今回のイベント。パシフィック洋行が掲げる「ゴッセの新たな魅力を発見していただく」という目的にふさわしい、充実したセッションとなりました。

この記事を書いた人

WSET Level 4 Diploma
A.S.I. Diploma Gold
JSAソムリエ・エクセレンス
ドイツワイン上級ケナー
日本ワイン検定1級(日本ワインマスター)
Sake Diploma & International

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